とある日 その1
京都の鰻の寝床状に入口が狭く、案外、奥行きのあるその店はいつも薄暗く、店の主人は大して売る気もなさそうに所在なげに暗がりの中に座っています。
妻に比べ、少なくとも知名度という点では何かと影の薄い感のあるこの伯爵氏であるが、無造作に後ろへ押しやった白髪と、透き通るような青い目、そして適度に贅肉がついた立派な体格とが微妙なバランスで溶け合って、妙に色気がある。
「枯れた風貌の骨並屋の主」
という印象を一瞬、見せながら、どうしてなかなか、道行く女たちを追いかけるその視線はまだ現役そのものだし、ひとたび口を開けば、その茶目っ気のある話しぶりは、彼が世慣れた男であることを咄墜に悟らせる。
その彼から一度だけ、誘われたことがりました。